2007年8月31日金曜日

理系白書

理系白書という本があるのをご存知であろうか。
講談社から発行されている良書である。
文系の王国日本で全く顧みられることのなかった理系の問題にはじめて深く切り込んだ渾身のレポートとある。
個人的には、理系人間への応援歌と受け止めているが、実は、理工系の大学にとってはいささか困惑した結果をもたらす本でもあるのだ。

本には、理系の悲惨さが、これでもか、これでもかと紹介される。
政財界のトップは文系が独占。
官僚のトップはすべて文系で、理系は技官とよばれ出世は局長どまり。
生涯賃金は文系よりも理系の方が5000万円少ない。
などである。
この本を読んだ政治家が「これでは日本の将来はあやうい。なんとか対策を講じよう」と思ってくれればよいのであるが、そんな様子は微塵もみえない。

それよりも、世の親たちが
「そうなのか。それでは、自分の子供を理系に進ませるのはよそう」
と思ってしまうのが先である。そのせいかどうかは分からないが、理工系への進学希望者は年々減っている。工学部でみると、過去10年で志望者は半減してしまった。理系出身者の悲惨な現状を伝えることは、理工系大学志望者を減らすという結果をまねいているのである。


ここで、理工系大学の教授としてあえてコメントしたい。
わたしは理系に進んで損をしたと思ったことは一度もないし、進路を聞かれたら、ぜひ理系に進みなさいと自信を持って言える。
ふと、理系に進学した学生はどう考えているのかと思い、アンケートをとってみた。
「理系は文系に比べて損をしていると世の中で言われているが、あなたはどう思うか」
すると意外な結果が出た。
そのとおりと答えた学生はほとんどいなかったのである。
むしろ
「実験やレポートが大変ではあるが、それだけ力がついていると思う」
「大学で遊びたいとは思わない」
「損をしたと言っているひとたちは、自分が成功しなかったことへの免罪符にしているのでは」
などの意見が大半をしめた。世の中捨てたものではない。
その後、学生の父母と懇談する機会があった。すると、こんな意見が出た。
「理系は大学で遊べないので社交性にかけるのではないか」
「理系はつぶしがきかないと言われているので会社で冷遇されるのではないかと心配だ」
親が子を心配するのは当たり前である。しかも、世の中では理系は損をしていると喧伝されている。

わたしはこう言った。
「心配しないで下さい。お子さんたちは、社会で立派に活躍できます」と。

2 件のコメント:

ゆっこりん さんのコメント...

トーマスさん

こんにちは。

私の息子は理系ですが、理系に進んでくれて嬉しいです。
科学の発達に少しでも関与でき、想像力を働かせて、その発展に貢献できたら、きっと彼の人生もさらに豊かなものになるでしょう。

文系偏重は嘆かわしい現状です。

TK さんのコメント...

理系は損をしている.

と感じるのは,理系学生が社会に出て実際に同期などの文系学部卒との差が明確に理解できるようになってきてからのことです.
学生が就職してから3年後に同様のアンケートを行えば結果は違ってくるのではないでしょうか?

更に気になるのは,大学内の理系社会人は研究者ですが,企業での理系社会人はほとんど研究者ではありません.いわゆる現場エンジニアです.

理系が損だと感じるのはこの現場エンジニアなんだと思います.研究に没頭する人生を拒んだ人種です.

同じ理系でも,ジェネラリスト派とスペシャリスト派の二種類いるのではないでしょうか.

ジェネラリスト派の理系は,一般に研究職に魅力を感じないタイプが多く,企業の現場エンジニアとしての人生を選択します.
そこで積分が出来ない上司に残業を強いられ怒られ,更に学生時代の武勇伝なんかを飲み会で披露されるものですから,自分の一所懸命実験,レポート,課題,実験,論文執筆,発表資料作成に睡眠時間を削ってモテない学生生活を送った自分が損だと感じるわけです.

理系生活8年の企業派遣大学生