2007年10月29日月曜日

緑のオーナー制度

 申し訳ないが、最初から胡散臭いと感じていた。林野庁が昭和61年から平成10年まで募集した「緑のオーナー制度」である。いま、投資家のすべてが元本割れにあえいでいる。国は損失補てんしないことを決定した。当たり前だろう。

 しかし、言いたいのは、どうして、こんなみえすいた嘘にだまされたのかということである。あるいは、詐欺と知っていて、日本の森林を守るためにボランティアとして金を投資したということであろうか。それならば、損を覚悟で投資したということであろうから、文句は言えまい。

 緑のオーナー制度は「人工造林地の保育や管理について、広く都市に住む人々の参加を求め、森林のもつさまざまな優れた機能の維持増進を図ろうとするものである」という意図で、林野庁傘下の森林整備法人が、主に杉林のオーナーを募集したものである。トーマスのもとにもさかんにパンフレットが郵送されてきた。

「森林所有者から植栽後、ある程度の年数を経て生育途中にある人工林の提供を得る一方、緑のオーナーとなることを希望する都市住民等にその造林地における過去の投資相当額と今後の所要経費の負担を求める」というのが趣旨である。日本語からは、裏に隠れている意図が分からない。要は、木のオーナーになって金を払えということだろう。

「森林所有者、費用負担者及び育林者の三者は分収育林契約を締結し、相互に協力してこの造林地が立派にできあがるように努めるとともに伐採時にその収益を一定の割合で分配する」となっている。あたかも、オーナーには収益の分配があるような印象を与えるが、当時から難しいことは多くのひとが知っていた。

 林野庁の失策による被害はこれだけではない。雑木林を伐採して杉林を増やした。ひとの通れない山奥に驚くような贅沢な林道をつくり、国の借金を増やした。台風がくれば、ダムは杉の木であふれている。保水力のない杉は、大雨がくればいっきに流されるからだ。結局、税金は自然破壊に使われたことになる。

2007年10月28日日曜日

サブプライムローン

 最近、サブプライムローン問題が世界的な株安の原因となっている。野村證券が1000億円の巨額損失を計上したことでも有名になった。

 サブプライムというのは、まともな利子では金を借りられない低所得者層のことである。これらサブプライムに高利で金を貸すのがサブプライムローンである。ただし、英語ではsubprime lendingが正しくloanという用語は使わない。

 まともな人間が考えれば、このローンが、いかにでたらめかが分かるだろう。こげつくのは当たり前である。そんなあやしげなローンに日本の金融機関がこぞって投資していたというのが不思議である。懲りない面々という言葉が頭に浮かぶ

 税金が優遇されるということから、アメリカでは住宅をローンで無理して買う人が多い。低所得者も、高い利子で借金し、住宅を購入する。驚くことに、この住宅を担保に、高利の金をさらに借りる。まさにあり地獄である。一度、はまったら抜けられない。借金を返せるわけがないのだ。

 実は、住宅を担保に借りた借金の額がいまだに不明なのである。一説には100兆円を越すといわれている。大変な金額である。まさに、日本のバブル時代を思い出す杜撰さだ。

 ところで、野村證券は、バブルのころに天下の野村と呼ばれ、不遜にも個人投資家をゴミと呼んでいた。その体質が昔にもどっていないことを願いたい。

 驚いたことに、これだけの損失を計上しても、野村證券は最終的には大きな黒字になるという。どこで儲けているのだろう。

2007年10月27日土曜日

新聞配達

 季節はずれの台風が関東に上陸するという。昨夜から降り続いている雨は勢いを増している。屋根に落ちる雨の音で目を覚ました。朝のコーヒーを飲んだあと、新聞受けを見にいくと、雨にぬれないように袋に包まれた新聞がちゃんと届いている。

 思わず、ご苦労さんと頭を下げる。どんなに天候が悪くとも、毎朝、新聞は届けられる。配達しているのは大学生である。新聞奨学生と呼ばれる。

 ほとんどの大手新聞社が採用している制度で、奨学生は、朝夕の新聞配達業務をこなす。その代わり、学費の一部あるいは全額を新聞社が払い、住居と給料も提供するというシステムである。つまり苦学生である。

 場所によって異なるようだが、トーマスが住んでいる地区では、彼らは新聞勧誘や、集金にもやってくる。集金の際に話を聞くと、居留守を使われたり、金がないから後から来いといわれることもあるらしい。

 新しい契約をとると、本当にうれしそうな顔をする。聞くと、都内の大学に通っている。大変だねと声をかけると、大丈夫です。大学を出たら、希望の職につきたいので苦にならないのだという。同情されたくないという強がりが少し垣間見える。

 大学で教えているので、感情移入が強くなる。つい気の毒になって、学生が勧誘にくると加入してしまう。それも半年ではなく一年。すると、学生は輝くような笑顔をみせる。おかげで、トーマスの新聞受けは三社の新聞で満杯である。

 彼らの労働条件は過酷ときく。中には、途中で挫折するものも多いようだ。でも言いたい。この苦労は将来につながるよと。

2007年10月26日金曜日

防衛スキャンダル

 防衛省の前事務次官の守屋武昌氏が業者との癒着で糾弾されている。なんとゴルフを毎週のように奥さん同伴で行い、かけ麻雀、焼肉パーティーをしていたというのだ。よく、公務員は安い給料で働かされて、寝る間も惜しんで働いていると文句をいっているが、どうやら、これは嘘らしい。

 その行状には、あきれてものも言えないが、実は、このスキャンダルが表沙汰になったのには理由がある。それは、山田洋行という会社の内紛である。
 
 山田洋行で長期に渡り防衛業界における事業拡大に寄与してきた宮崎元伸氏が、オーナーの山田一族との確執から、同社を退任した。宮崎氏は退任後、新しい防衛専門商社として日本ミライズを設立し、山田洋行から約50名の社員が同社に転籍した。

 なんと、GEの子会社は、山田洋行との販売代理店契約から戦闘機用のC-Xエンジンの取扱いを外し、日本ミライズを新たな代理店としたのだ。その経緯は分からないが、山田洋行側は当然激怒した。その結果、宮崎氏のスキャンダルをマスコミにばらしたのである。そのとばっちりを受けたのが守屋氏ということになる。

 とばっちりという表現は正しくない。不正をしていたのだ。ここで強調したいのは、この内紛がなければ、このスキャンダルは闇に葬りさられていたということである。不正を働いた事務次官は驚くような額の退職金を税金からせしめ、逃げおおせていたのである。

 いままで、どれだけの役人が不正をあばかれずに高い退職金をせしめていったのであろうか。そちらの方が気になってしょうがない。

羊頭狗肉

ミートホープ社の社長が逮捕された。
その後の報道に驚いた。うさぎ肉まで混ぜていたというのだ。DNA検査で見つかったというのだが、本当だろうか。

小さい頃、うさぎを近所のひとが食べていると聞いて驚いたことがある。しかし、それを食べた近所のおじさんは、生臭くて、とても食べられたものではないと言っていた。

よしんば、うさぎ肉を混ぜたとして、どこから手に入れたのだろうか。想像するだに恐ろしい。

最近、食に対する信頼が失せている。しかし、すべてのケースは、最近ばれたというだけで、実際には何十年も前から行われてきた行為である。

トーマスの父は出前の食べ物は絶対口にしなかった。家族は不思議に思っていたが、なぜか本人は理由を言わない。しつこく聞くと、出前をしている外食屋で働いたことがあるからだという。ただし、死ぬまで、その店がなにをしていたかは言わなかった。戦後の混乱期であったから、何でもありの時代だったかもしれないが、少しおそろしい。でも聞きたかった。

2007年10月22日月曜日

レッドソックス松坂

もし負け投手になっていたらどうだったろう。プレーオフのレッドソックス松坂の登板の話である。もちろん、松坂のこともあるが、それよりもボストン地区に住む日本人のことが心配だった。おそらく日本人全員がバッシングにあっていただろう。下手をしたら焼き討ちである。

なにしろ、あれだけ高い金を出してとったのだ。それなりの活躍を期待するのは当たり前である。
スポーツファンとは、いいかげんなもので、勝てば官軍、負けたら賊軍である。しかも、負けたら人格を含めてすべてを否定する。亀田ファミリーがいい例である。

今日、ボストンは大騒ぎらしい。何しろ、1勝3敗の絶体絶命からの大逆転である。スポーツバーでは、日本人に握手を求める地元ファンが多いという。しかし、もし負けていたらとぞっとする。きっと、袋だたきにあったであろう。

ところで、地元のテレビ局は、選手へのインタビューを興奮ぎみに、終日流しているらしい。ボストン在住の友人の話では、残念ながら松坂のインタビューはいっさい流されていないという。本来、英雄のはずなのだが。

答えは簡単である。松坂は英語がまったく話せないから、インタビューの仕様がないのだ。まさか、チームメートと喜んでいるところに、おじゃま虫の通訳など入れられないだろう。
今後の活躍のためにも、ぜひ英語を学んでほしい。ついでに苦言を呈すれば、あのぶよぶよの体はやめて欲しい。太る体質とはきくが、結局、野茂も太ってだめになった。あれだけ、めぐまれた才能があるのだ。イチローを見習って、体重管理をしてほしい。よけいなお世話といわれるかもしれないが。

赤福

 伊勢志摩観光のおみやげは赤福というのが定番だった。本拠地は伊勢神宮のある三重県であるが、その勢力は名古屋など広い範囲に及んだ。
 その老舗が、偽装したというから驚きである。

 最初は、工場が比較的暇な時期に、作りだめしたり、余ったりした商品を冷凍し、繁忙期の年末年始に解凍して売り出すと言い訳していた。この程度ならば、許せるかなと思っていたが、実際はそうではなかった。
 何と、売れ残った商品をそのまま包装し直しただけの「まき直し」を、よく売れる販売店へ、朝早い便で出荷していたというのだ。これは、完全に偽装である。しかも、この偽装工作は30年も前から行われていたという。空いた口がふさがらない。

 しかし、こんなやり方では、古い偽装品と新品の区別がつかなくなるのではと考えていたら、ちゃんと対策がとられていたのである。
 まき直しは「謹製」の日付の部分に印字した「・」(ピリオド)で目印をつけて、担当者が見分けがつくようにしていたという。これならば、古い商品をまき直しする心配はない。感心するやら、あきれるやら。会社ぐるみの偽装だったというわけである。

 ところで、赤福だけではなく、最近、食品会社の不正が明るみに出ている。これに対して、社会全体のモラル低下を原因と指摘するむきもあるが、赤福は30年も前から偽装をしていたのである。いまに始まったことではないのだ。
 あえて言えば、不正が明るみに出るようになったのは、公益通報者保護法が成立したことと関係があるのかもしれない。内部告発者が、法で守られるようになったのだ。

 ただし、いまだに、日本には内部告発者を非難する風土がある。警察や検察の裏金を内部告発した人間が組織から疎まれ、罪を犯した連中は責任をとらずに出世している。

2007年10月20日土曜日

実るほど頭を垂れる稲穂かな

実りの秋である。稲穂が育ち、田圃は黄金色を帯びている。そして、たわわに実った稲の頭はみごとに下がっている。その様子を見て、できた言葉が「実るほどこうべをたれる稲穂かな」であろう。五七五となっているので、ある賢人が詠んだものと思ったが、どうやら出所は不明らしい。

社会で地位や名声をえているひとほど謙虚という意味である。社会で成功するためには、自分の実力だけでは難しい。必ず、多くのひとの支援がある。それに感謝する気持ちを常に忘れないというわけである。

しかし、まわりを見渡すと、この言葉は普遍とは言いがたい。政治家しかり、テレビ関係者しかり、最近では、沢尻エリカや亀田ファミリーがすぐに思い浮かぶ。

亀田兄弟がかつてトレーニングしていたボクシングジムのオーナーが、昔は 兄弟も父も礼儀正しかったと証言している。いまの亀田ファミリーの態度が信じられないといういのだ。

 彼らは、いつから変わったのだろうか。世間の注目をあび、大金が入るようになってからだという。大阪をすて、東京の協栄ジムに移籍してからおかしくなったとされている。その人気をいいことに増長したとしか思えない。
 あれだけ世の中で注目されるようになったのは、多くのひとの支援があったからこそなのだ。それを忘れてはならない。いまは、亀田ファミリーのバッシング一色だが、これをいい教訓として、一家が初心にかえることを祈りたい。

2007年10月19日金曜日

二世議員

いまや、日本の政界は二世議員であふれかえっている。地盤、看板、かばんを親からひきついで苦労せずに選挙に受かる。

 これには、いい面と悪い面がある。いいところは、変なあせりがないこと。一から選挙に出ようという人間は大変な苦労をする。当然、支援を受けた人間とのしがらみも強くなる。
政治家の支援者は自分たちの利権を確保したいから推すのである。当然、当選したら見返りを要求する。これでダメになった政治家はやまのようにいる。
一方で、なんの苦労もせずに当選した二世は利権集団をそれほど大事にしない。そのため、思わぬしっぺ返しを食うことになることもある。なにしろ、支援者たちが、二世を議員に推すのは、利用したいがためであって、人間性や実力などまったく評価していない。

世襲の大きな問題は、受かった議員が自分の実力で受かったと勘違いすることであろう。 かつて、議員連盟の勉強会と称した昼食会に出たことがある。二世議員のオンパレードであった。そして、驚いた。できの悪い小学生以下である。まず、講演者の話をまともに聞かない。話の途中なのに平気で歩き回って、議員どうしで挨拶している。学級崩壊というが、国会議員はそれよりひどい。

 人の話を聞かずに歩き回るだけでない。質問するときの言葉づかいが、まったくなっていない。講演者に対して
「あんたの言っていることはさっぱり分からない」
と暴言をはく。人の話を聞いていなかったはずなのだが。
あげくのはては
「予算をつけて欲しいだけなんだろう。わかっているよ」
不遜そのものである。
驚いたことに、明らかに愚鈍な二世議員の多くが大臣になっている。そのひとりの就任挨拶を聞いて驚いた。実に殊勝である。少しは勉強したということか。でも、彼らの傲岸不遜な顔をみれば、まったく進歩していないことが分かる。

2007年10月16日火曜日

晩節を汚す?

黒川紀章という名前を聞くと、どんな印象を持つだろうか。丹下健三の弟子で、世界的に有名な建築家。「世界中の建築家は自分のまねをしている」と豪語する不遜な自信家。そして、有名女優の若尾文子と結婚した男。そんな程度のイメージであったろうか。

 それが驚くことに、都知事選に立候補を表明した。しかも、奇行と耳を疑う発言の数々。このひとは気がふれたのではと疑ったひとも多かったろう。
 石原都知事が演説している横で、ハンドマイクを持ちながら、石原裕次郎の「銀座の恋の物語」をオンチそのものの声で歌っているところなど、下手な喜劇よりも、はるかに面白かった。意図は全然理解できなかったが。

 そして、みごとな落選。話題には上ったが、票にはまったく結びつかなかった。これで退散するかと思ったら、なんと、参議院議員選挙に再び登場した。しかも、奥さんの若尾文子さんをともない、共生新党という政党までつくってしまった。これにも唖然とさせられた。

 選挙カーも独特である。あれが、世界的な建築家のデザインかと思わず笑ったひとも多かったろう。そして、これまた見事に落選。

 この一年で、黒川紀章という天才建築家に対する世間の見方が大きく変わったのは確かだろう。さらに驚いたことに、あっという間に亡くなってしまった。あまりの早わざに声も出ない。
 そして「自分はいい妻ではなかった」という若尾文子に「本当に好きだったから」とさらっと言えるスマートさ。やはり凡人には天才は分からない。

亀田ファミリー

 ボクシングの亀田ファミリーに処分が下った。その処分が重いかどうかには賛否両論がある。世界戦であれだけ失態を演じたうえ、反則を促すセコンドの声がマイクで拾われていたのだから、しかたがないであろう。

 個人的には、亀田ファミリーは嫌いではなかった。あの不遜な態度も、若気のいたりといえば、それまでである。ヒールとしての亀田をマスコミが期待し、それに応えるために、兄弟が、あのような態度をとり続けたとも思えるからだ。
 
 しかし、今回は許せないことがあった。
 世界チャンピオンの内藤大助はかつて、ひどいいじめにあっていたという。その苛烈さのために胃潰瘍ができたほどだったという。内藤は、そのいじめを克服するために、ボクシングをはじめた。

 最初の世界戦では、たった34秒で破れ、日本の恥といじめられたそうだ。しかし、その苦杯にもめげず、再度立ち上がり、世界チャンピオンとなった。

 その内藤に亀田大毅は
「あまえは、いじめられっ子だったらしいな。俺はいじめっ子だから、お前をいじめてやる」
と言ったらしい。これはいけない。言ってはいけないことであるし、彼の本性をむきだしにした発言だ。

 内藤の活躍を目にして、いじめから立ち直った子供も多いという。
「今いじめで苦しんでいる子たちのためにも自分は負けられない」
そう内藤選手は誓っていたという。

2007年10月13日土曜日

奇行の政治家

またも小沢一郎の奇行がはじまった。
日本社会が停滞しているのは、自民党という利権誘導型政党が60年以上も与党で政治を牛耳ってきたからである。政権交代がこれだけ進まない民主主義の国は世界に例をみない。

かつて、一度だけ政権交代のチャンスがあった。それをつぶしたのは小沢一郎である。偏執狂的な社会党攻撃で、ついに社会党が腹を立て、自民党と連立を組むという暴挙に出た。

 先の選挙で、民主党が参議院の第一党になったことで、政権交代の可能性がみえてきた。他の野党も民主党に歩み寄る姿勢を見せている。自民党は「年金問題」や「政治と金の問題」で青息吐息であった。

 そんな好機に出てきた発言が、民主党小沢党首による「ISAFへの自衛隊の派遣」である。ISAFは国際治安支援部隊 (International Security Assistance Force)のことで、イラクの治安維持活動よりも危険とされている。

 当然、民主党内にも反対論が多い。小沢は党内でも、まったく議論をせずに、この発言をしたらしい。しかも疑問を呈する党員には「党の考えに従えないのであれば離党しろ」と恫喝した。

 このばかな発言で、政権交代のチャンスはほぼ消えたであろう。たったひとりの愚鈍な政治家のために、日本は二度も政権交代のチャンスを失ったことになる。

2007年10月12日金曜日

スリーナイン

ある研究所の話である。この研究所は官民共同で設立されたもので、新しい試みということで、発足当初はかなりの脚光をあびてマスコミでも大きく取り上げられた。

 官民共同ということは、当然、官庁からの天下りもあり、企業からの天下りもある。いずれ、旧組織では使い物にならないという烙印を押された連中がやってくる。やっかいばらいで、送られてきた半人前なのだ。

 この研究所にT自動車から財務部長が出向してきた。もちろん、T自動車にとっては、やっかいばらいの積もりであったのだろう。ところが、往々にして、こういう連中は勘違いする。何もしなければいいものをはりきって仕事をする。

 出向から一年後、この部長は所長表彰を受ける。研究費の大幅削減に成功した功績である。ところが、この一年間、この研究所では奇妙な現象が起き続ける。それまで世界に誇れるような成果を出してきたのが、突然、研究が停滞してしまったのだ。

 答えは簡単である。この財務部長が研究員に無断で、使用している金属の純度を99.999%から99.9%に変えてしまったのである。もちろん、金属の価格はとてつもなく安くなる。部長は同じ金属だから安いほうがいいと勝手に判断したのだ。

99.999%は9が5個ならぶのでファイブナインという。これは宝物である。しかし、99.9%つまりスリーナインの金属には、どんな不純物が入っているかわからない。当然、不純物は実験結果に悪影響を与える。系統的な実験結果はえられない。

これには、若い研究員たちが怒った。そして、ひとりがT自動車の人事に文句を言いにいった。あの部長はなんだと。結局、この研究員のほうがクビになった。

2007年10月11日木曜日

相見積もり

ある装置を購入しようとする時、仕様を提示して何社かに見積りを提出させ、いちばん安い価格を提示した企業に発注する。限られた予算を有効に使うという観点では当然のことである。

ところが、これには思わぬ落とし穴がある。実績もない企業が受注したいがために、不当に安い価格で入札してくるのだ。何もしらない事務屋は、そこに発注してしまう。

当然のことながら、期日までにものはできない。たとえぎりぎり間に合ったとしても、とても使える代物ではない。責任をとりたくない事務屋は、現場に責任を転嫁する。現場は、どうしようもない装置のために無駄な時間を浪費する。かくして、有効に使おうと思った金はすべて無駄となる。ついでに現場の士気も低下する。

実は、この話は日本だけのことではない。かつてイタリアの公共事業で、同じようなことが頻発してリラが暴落したことがある。当時は、マフィアが暗躍し、国会議員も裏で糸をひいていた。おかげで、イタリアの公共事業ではまともに建物がたたない、道路や橋もできないという事態が起こった。

日本とちがうところは、国民の怒りを背景に検察が国会議員の三分の二を牢獄に入れたことである。

2007年10月10日水曜日

マルチ商法

 昔からねずみ講と呼ばれる詐欺は後を絶たない。マルチ商法とも言われる。手口は簡単で、ある商品の購入で客を紹介すれば謝礼がもらえるという仕組みである。いろいろなパターンがあるが、基本は変わらない。

 いちばん単純な例で考えよう。二人の客を紹介すれば商品がただでもらえるとしよう。最初の客は友人二人を販売元(詐欺の胴元)に紹介する。つぎの二人が同じことをする。すると新たな客は四人になる。日ごとに、この勧誘が行われれば10日後に1024人、20日後に1048576人となり百万人を越える。そして1月後には1073741824人となって10億人を超えるのだ。日本の人口の10倍である。これは、有名なねずみ算と呼ばれる計算で、数が倍々となっていく。

 これが、客を二人ではなく五人紹介するとなれば、たったの12日で日本の人口を超える。商売として成り立つはずがないのである。何度も言われてきているのに、現在でも多くのひとが同じような詐欺にあっている。

 ところで、今度出資法違反容疑で逮捕されそうなL&Gの波会長は、昔、ねずみ講詐欺で捕まっている人物である。円天などというばかげた通貨を編み出し、年利36%の配当をうたって金を集めた。だまされた人達は気の毒であるが、なぜか世間は冷たい。こんな詐欺にひっかるほうがどうかしているというわけである。

2007年10月8日月曜日

児童手当

民主党が児童手当を26000円に増額することを提案している。趣旨そのものは悪くない。少子化が問題になっている日本では、早急の対策が必要である。

しかし、財源をどうするかという問題がある。
国の無駄をなくせば、充当できるとしているが、多くの国の予算は利権の巣窟で、身動きがとれないのが実情であろう。予算にメスを入れようとすれば、民主党の支持組織から反発を食らうに違いない。もちろん、自民党の利権のほうがはるかに大きいから、民主党のほうがまだ見込みがあるのも事実である。

ただし、せっかくの児童手当が有効に活用されないおそれもある。払える余裕があるのに給食費を払わない親が増えている。一説では、児童手当はパチンコ代に消えるのではという指摘もある。

それならば、母子家庭により手厚い手当てを出すべきであろう。分かれた亭主に養育費を払える余裕がないため、最低の生活を余儀なくされていると聞く。手当て欲しさに、離婚が増えるという心配もあるが。

2007年10月4日木曜日

表と裏

 昔の友人のことをふと思い出した。この人は、ある会社をリストラされたのであるが、幸い、その子会社に職をえることができた。とは言っても、以前の会社に比べれば、給与も含めた待遇はみじめなものである。
 しかし、この友人は健気にがんばった。彼の仕事のひとつに親会社に設置している自動販売機の管理があった。みなさんも暑い日の朝に自販機で買ったドリンクが生ぬるくて腹が立った記憶があるだろう。これは、自販機に入れた缶が冷えるまでに時間がかかるからである。
 そこで、この友人は一計を案じた。最初に商品として出てくるドリングを冷蔵庫で冷やしておこうと。そして、ドリンクを補充する担当の部下に指示した。この画期的なアイデアで、この社の自販機は評判になった。
 ところが、これを面白く思わないバカが居た。友人の上司である。自分に無断で余計なことをしたというわけである。「商品を冷やすために余計なコストをかけて会社に迷惑をかけた」と友人を叱責した。
 この友人は辞表をたたきつけた。その後、彼がどうなったかは知らない。分かっているのは、この上司が画期的なアイデアを出したということで社長表彰を受けたことだけだ。
 もうすぐノーベル賞が発表になる。それが、本人の成果であることを祈るばかりである。

2007年10月2日火曜日

MRI有罪判決

MRIという装置をご存知だろうか。Magnetic resonance imagerの略で、解剖せずに人体内部を観察できる装置ある。一台一億円以上と高価であるが、解像度がすぐれているため、病院は競うように導入している。

この装置は、磁場強度が大きいほど感度がいいため、磁場源として超伝導マグネットが使われる。残念ながら、超伝導を利用するためには極低温まで冷やさなければならない。

いまのMRI装置は液体ヘリウムを冷媒として使っている。その沸点はわずか絶対温度で4度である。氷点下296度という低温である。こんな低温を保持するのは並大抵ではない。

ところで、液体ヘリウムは、絶対温度4度よりも高くなると気体になる。まわりの温度が高ければ、いっきにガス化する。ご存知のように、液体が気体になれば体積はいっきに何百倍になる。

その圧力は生半可ではない。金属の容器さえ突き破る。だから、安全策はいろいろととられている。このガス化が原因で、MRI装置が爆発し、8名の病院関係者がけがをした事故があった。テレビでも大きく報道されたので知っている方もいるだろう。

実は、この事故で、この装置の管理をまかされていた技術者が告訴されたのである。一審では無罪であったが、控訴審で有罪となった。いわく、専門の技術者であれば、知識が十分あったはずであるという判決理由である。

今回の例に限らず、裁判に科学知識が要求されるケースが増えている。しかし、経験者として言わせてもらえば、どんなに熟練者であっても、すべてのケアをすることはできない。

一度、検察官と裁判官に液体ヘリウムを取り扱わせれば、どれほど大変かとうことを実感するのであろうが、それは残念ながらできない。しかし、弁護士は何をやっていたのだろうか。そうか、弁護士も理系オンチであった。
有罪となった技術者には、お気の毒と言うしかない。