11月5日、九州電力がプルサーマルの試運転を始めたというニュースが流れた。他の電力会社も追随する予定と聞く。これに対し、安全性が十分確認されていないとして、反対派が反発を強めている。
プルサーマルとは、プルトニウム(plutonium)とサーマルリアクター(thermal reactor)の頭のプルとサーマルを勝手に合成した和製英語である。よって、海外のひとには通じない。さらに、サーマルリアクターとは本来は熱反応器の意味であるが、原子力関係者では軽水炉(light water reactor)のことを指している。
世界の原子力発電の多くは軽水炉を使用しているので、サーマルリアクターと言えば、軽水炉を指すことになったようだ。軽水とは普通の水のことで、これで原子炉を冷やすとともに中性子を減速させているので軽水炉と呼んでいる。これに対し、重水素(原子量1の水素の同素体で原子量が2と大きい)からなる水を重水と呼び、これで原子炉の冷却と中性子の減速をさせているものを重水炉(heavy water reactor)と呼んでいる。
原子炉は、ウラン(uranium)を燃料にしている。ウラン(U)には質量数が238と235の2種類があり、U235が核分裂して放射能を出す。普段は、核分裂はゆっくり進むが、中性子をあてると、核分裂が加速される。さらに、この核分裂によって中性子が放出されるので、さらに核分裂が促進される。これを連鎖反応と呼ぶ。これを放置しておけば、反応はいっきに進み大爆発が起きる。これが原子力爆弾の原理である。この中性子を減速させ、ゆっくり反応させることで電力をつくりだしているのが原子力発電である。
ところで、天然ウランにはU238の方がはるかに多い。U235の含有量はわずか0.72%で1%に満たない。軽水炉では、中性子の減速が大きいので、天然ウランをそのまま燃料にはできず、U235の濃度を高めた濃縮ウランを使っている。一方、重水炉では、中性子の減速が小さいので、天然ウランをそのまま燃料に使えるという利点がある。
それでは、なぜ重水炉が普及しないかというと、重水が水に含まれる量はわずか0.016%であり、それを取り出すのに手間とコストがかかるからである。結局、軽水を使うほうが簡単で低コストということで、軽水炉が普及しているのである。
ところで、U235の濃縮には、質量差を利用した遠心分離が使われる。テレビニュースなどで、原子力開発で遠心分離機が話題になるのは、この濃縮する技術があるかどうかが鍵となるからである。
とこで、天然ウランは資源として限られている。いずれ枯渇するであろう。ここで、登場するのがプルトニウムである。原子力発電でウランを燃やすと、プルトニウムができる。しかも、プルトニウムは核分裂するので、燃料として再利用することができる。それがプルサーマル計画である。
ただし、この計画に反対する人たちは、濃縮ウランを燃料として設計されている軽水炉にプルトニウムを燃料として使って安全かどうかという点を問題にしている。これに対し、電力各社は安全性に問題はないと主張している。
原子力発電をエネルギー源として、今後も使い続けるならばプルサーマルは必須の技術となる。ただし、不確定要素もある。いまの生活水準を続けるのか、それとも質素な生活で我慢するのか、結局は、この選択を迫られているのである。
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